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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)110号 判決

控訴人 野村圭佑

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 長谷川泰造

浅岡輝彦

久保田敏夫

被控訴人 町田健彦

右訴訟代理人弁護士 堀家嘉郎

松崎勝

石津広司

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は、東京都荒川区に対し、金六九万三二一〇円及びこれに対する昭和五四年八月一七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

当裁判所も控訴人らの請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次に訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決一四枚目裏末行「には」の次に「被控訴人の内心の意図を問うまでもなく」を加える。

二  同一五枚目表九行目初めから一六枚目表七行目終りまでを次のとおりに改める。

「四 付言するに、

被控訴人のなした本件挨拶文を掲載した本件区報の発行頒布が罰則をもって禁ぜられる公職選挙法一七八条の行為に該当するか否かは以上にみたとおりであるか、地方公共団体たる区の長がその就任にあたり、自らを紹介し、その抱負・政見などを区民に広く知らせることはそれ自体意義あるもので、当選の直後であるからといってこれを避けるべきものといえないけれども、区の公費をもってこれをなす限り、無用の宣伝売名は厳にこれを避けるべきはもとより、単に儀礼的内容に止まることなく、具体的な抱負・政策を提示するのが当然の責務である。

また、被控訴代理人は、本件区報に本件挨拶文が掲載されたからといって荒川区は特に新しい支出を要せず、なんらの財産的損害を被っていない旨主張するが、区報をもって区民に周知を図るべき情報は数限りないといっても過言でなく、区の担当者において区民にとって最も有益な記事をもって紙面を満たすべきことは当然であり、予算の制約下に限られた紙面を割いて本件挨拶文を掲載するのであるから、これに相当する費用は、本件挨拶文の掲載に基因する区費の支出とみるほかない。」

よって、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 倉田卓次 高山晨)

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